ヴィダル・サスーン(1928-2012)は、現代美容の歴史において「最も革命的な変化をもたらした」と称されるイギリス出身の伝説的ヘアスタイリストです。彼の最大の功績は、それまで主流だった「逆毛を立て、スプレーで固める不自然なセット髪」から女性を解放し、骨格に基づいた幾何学的なカットだけで形が決まる「サスーン・カット(ジオメトリック・カット)」を確立したことにあります。
1960年代、彼は「髪を洗って乾かすだけで形が整う(Wash and Go)」という機能美を提唱し、五角形に切り揃えた「ファイブ・ポイント・カット」や、シャープな「ボブ(ナンシー・クワン・ボブ)」を発表。このブラントカット(直線的な切り口)の技法は、当時のミニスカートブームなどのモッズ・カルチャーと共鳴し、世界的な社会現象となりました。彼が体系化した「サスーン・ロジック」は、現在も世界中の美容師が基礎として学ぶバイブルであり、私たちが日常的に享受している「カットのデザイン性」のすべての源流となっています。
主なポイント
- 「建築的」なカット理論: 頭部を球体として捉え、点(ポイント)、線(ライン)、面(セクション)の幾何学的な計算に基づいて髪を切り進める科学的な手法を確立した。
- 女性のライフスタイル変革: 美容室で数時間かけてセットし、数日間洗えない不自由な髪型を終わらせ、「多忙な現代女性が自分で再現できる髪型」を定着させた。
- ブラントカットの完成: 髪を一切梳(す)かず、ハサミの切り口だけでボリュームや流れをコントロールする精密な技法は、現代のボブやショートの究極の基礎。
- 教育機関の設立: ロンドン、サンタモニカ等に「ヴィダル・サスーン・アカデミー」を創設。世界中から美容師が集まり、技術を標準化・普及させる仕組みを作った。
- トータルブランドの展開: サロンワークにとどまらず、シャンプーなどのヘアケア製品のプロデュースを通じ、一般家庭の美意識にも多大な影響を与えた。

