大垂髪とは、平安時代の貴族女性の基本形であった「垂髪(すべらかし)」が、時代を経て江戸時代に様式化された、日本の宮廷装束における最も格式高い女官の髪形です。最大の特徴は、左右の脇髪(鬢:びん)を大きく横に張り出させた独特のシルエットと、後ろ髪を背中へ長く滑り下ろす優雅なラインにあります。
現代では、皇族女性の婚礼(十二単着用時)や即位の礼などの重要な国儀においてのみ拝見できる、まさに「日本の美の頂点」とも言える儀礼用の様式美です。本来は地毛で結い上げるものでしたが、現代ではその巨大な造形を維持するため、「おすべらかし」の形状をしたカツラを使用するのが一般的です。髪の根元を絵元結(えもとゆい)で結び、背後で等間隔に水引をかけることで、流れるような黒髪の光沢を際立たせます。
主なポイント
- 宮廷の正装: 十二単(五衣唐衣裳)に合わせる唯一正統な髪形であり、高貴な身分と品格を象徴する。
- 「鬢(びん)」の張り出し: 左右に大きく膨らんだ独特の形は、江戸時代以降に誇張されて完成したもので、顔を小さく、首を細く見せる視覚効果がある。
- 絵元結と水引の装飾: 髪の根元を束ねる白い「絵元結」や、背後の髪をまとめる「水引」が、黒髪とのコントラストを生み、神聖な雰囲気を醸し出す。
- 機能美から様式美へ: 平安初期の「ただ垂らすだけ」の自然なスタイルから、儀式用に固定された「建築的な造形」へと進化した歴史的背景を持つ。
- 現代の伝統継承: 雛人形の「お雛様」のモデルとしても馴染み深く、日本人が抱く「高貴な女性」のイメージの原点となっている。

