床山とは、相撲の力士や歌舞伎役者、映画・演劇の俳優が使用する「髷(まげ)」や「かつら」を専門に結い上げる職人の呼称です。一般の美容師や理容師が「カット」を主軸とするのに対し、床山は伝統的な型に基づいた「結髪(けっぱつ)」と「造形」に特化しています。力士の象徴である「大銀杏(おおいちょう)」や、時代劇の役柄を決定づけるかつらの毛流れを、ミリ単位の手仕事で構築する伝統文化の守り手です。

最大の特徴は、「道具と素材の使いこなし」にあります。非常に粘り気の強い「鬢付け油(びんづけあぶら)」を手の熱で練り、ツゲ製の櫛(くし)や麻糸、元結(もっとい)を駆使して、激しい動きや長時間の舞台でも崩れない強固な造形を作り上げます。国家資格である理容・美容師免許は法律上不要とされていますが、その技術は数十年におよぶ厳しい徒弟制度や修業によって継承される、極めて専門性の高い「伝統工芸的技術職」です。

主なポイント

  • 「大相撲の床山」: 日本相撲協会に所属。力士の階級に準じて床山にも「特等」から「五等」までの階級があり、番付上位の力士の大銀杏を結えるのは上位の床山に限られる。
  • 「大銀杏(おおいちょう)」の美学: 結い上げた髪の先端をイチョウの葉のように広げる。これは単なる装飾ではなく、土俵下への転落時に「クッション」として頭部を守る機能的な役割も持つ。
  • 「演劇・映画の床山」:
    • 結い上げ: 役柄(お姫様、武士、町娘など)に合わせたかつらの髪を整える。
    • メンテナンス: 撮影や公演ごとに乱れた毛を直し、常に完璧な状態を維持する。
  • 「専用道具」の継承: 荒櫛(あらぐし)、揃い櫛(そろいぐし)、前掻き(まえがき)、髷棒(まげぼう)など、用途に合わせた数種類の櫛を使い分ける。これらの道具自体も職人による手作りであり、非常に貴重。
  • 「役作り」のパートナー: 役者の骨格や役柄の性格に合わせて、髷の高さや鬢(びん)の張りを微調整する。床山の腕一つで、役者の「顔立ち」や「風格」が劇的に変わる。
  • 「におい」の文化: 鬢付け油(バニラのような独特の甘い香り)は、床山が仕事をした証。相撲部屋や楽屋に漂うその香りは、日本の伝統美を象徴する要素の一つ。